原発事故被災動物と環境研究会

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研究会について

2011年、東日本大震災に伴って起きた福島第一原子力発電所の事故により、周辺地域に放射性物質が飛散しました。当時、国は農家の同意の下での全頭安楽死処分の方針で半径20kmの警戒区域内の牛の処分を進めました。しかし、法的根拠もなく処分される牛を前に、被災地の畜産農家は、二重の苦しみを受けていました。当研究会は、被災地の畜産農家と協力し、低線量の放射性物質を長期間被ばくした牛を対象に、科学的な調査を行っています。

低線量の長期間にわたる被ばくが、人や環境に与える影響は,十分なデータがなく完全な予測はできていません。特に大型哺乳動物の被ばくに関しては実験すること自体がほぼ不可能なため、事故とはいいながらも多数残された被ばく牛の存在は世界的に見ても貴重です。国に繁殖を禁止されてしまったために遺伝的影響まで見ることはできませんが、牛の寿命は20年程度あるので、ある程度の長期被ばくの影響評価はできるものと考えています。

当研究会の活動は、多くの方々の支援やボランティア活動で成り立っています。この調査研究で得られた結果を後世に残していけるよう、更に研究を進めてまいります。

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活動概要


警戒区域内で行ってきた家畜福祉の向上に関する活動

警戒区域内で牛を集約していった牧場は、どこも超過密状態でした。さらに震災後の自然交配による頭数増加は速いスピードで進行しており、2013年3月に全個体調査を初めて行ったとき、雌牛は分娩後間もない牛を除いてほとんどが妊娠していました。飼養者は片道100キロ以上の距離を牛の世話に通っている状態でしたから、管理にも限界がありました。

飼料はもともと大きく不足していました。そこで妊娠牛の堕胎と雄牛の去勢がまず最初の仕事になりました。本来は繁殖させることで被ばくの遺伝的影響を見たかったのですが、国は飼養施設の設置を考慮してくれず、飼養管理を農家に依存しなければならない状況では、農家の負担軽減が優先されました。飼養管理設備の整備は、牛が逃走してトラブルが生じた場合、農家に責任が生じるため、電気牧柵の設置と個体管理のための追い込み柵の設置を研究会の負担で全農家に対して実施しました。

飼料調達は最大の課題で、東北一円で使用できない低汚染牧草を集めたり、北海道からロール乾草を大量に購入したり、飼料の寄付を募ったりと、ありとあらゆる手段で飼料を集めました。あらかじめ許可を取ることができないトラックは警戒区域には入れないため、飼料をエム牧場のトラックに積み替えて農家まで搬送しなければなりませんでした。事故からの時間の経過とともに資金調達が困難となってきて、現在は農家が飼料代をすべて自己負担せざるを得ない状況になっています。

年に3回実施してきた総合調査では、牛の健康管理のための血液検査と定期的駆虫、疾病牛の治療を実施してきました。総合調査時以外に怪我や疾病の牛が出た場合には、普通の獣医師は警戒区域に立ち入れないため、研究会メンバーの獣医師が福島市や岩手県から往診を行いました。
疾病や怪我などで放牧生活に耐えられない状態になった牛に関しては、無理に生かすことは動物虐待につながるため、農家の同意を得た上で安楽死を行い、“命”を無駄にしないという方針で、病理解剖した上で様々な検査を行ってきました。
 


警戒区域内で行ってきた研究の概要

総合調査開始当初は、7カ所に集約された牧場で、年3回の検診を行い、目視による牛の健康診断や治療と併せて、空間線量の計測、採血による健康診断とセシウム汚染状況調査、体表に発現した白斑の観察などを実施してきました。
さらに、空間線量の最も高かった浪江町の小丸共同牧場は、2本の川と山に囲まれた閉鎖された場所で、震災後、牛がその場所から外部に出ずにそのエリア内で生き続けたことから、重点観察牛群と位置づけして多様な調査を行ってきました。

【総合調査】
・生体:血液生化学検査、血中放射性セシウム濃度測定、被ばく線量測定、行動調査
・環境:土壌中放射性セシウム濃度測定、空間線量測定(牧場を84メッシュに区画)
・植生中放射性セシウム濃度測定、河川水・湧水中放射性セシウム濃度測定

【随時検査】
・解剖:怪我や疾病などで生存が困難であった個体について解剖により以下の検査を行いました。

[病理組織学的検査、組織中放射性セシウム濃度測定、骨中ストロンチウム濃度測定]
研究会独自の調査の他に、他の研究グループとの共同作業の実施や、現地に立ち入りを希望する研究者の仲介や同行を行ったり、解剖材料の提供を行ってきました。 資金や人力などに様々の制約がある中で努力し、将来に残る貴重な情報が残せるよう継続的な活動がまだ続きます。
 

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研究会活動概要報告書

福島の震災から10年を迎えるにあたり、これまでの活動の概要と成果を取りまとめました。

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会計報告